べっぴんコレクショングループの求人情報

第3話　最初のお仕事は、涙の中で講習を終えて、いよいよ初めてのお仕事の日。準備をしてもしても、自信なんて湧いてこなくて、お店に向かう足取りは重かった。「本当に私にできるのかな…」「怖い人だったら嫌だな」「でも短時間だし」そんな思いが頭の中をぐるぐると駆け巡る。スタッフさんが「大丈夫、大丈夫。困ったことがあったら、すぐ言ってね」と声をかけてくれたけれど、正直、心臓が破裂しそうなくらい緊張していた。お客様が来店された瞬間、手汗が止まらなかった。ドアの向こうに立つその人は、思っていたよりも優しそうな人で、「緊張してるの？」と笑いながら声をかけてくれた。その一言だけで、少しだけ肩の力が抜けた。拙い接客だったと思う。会話もぎこちなくて、終始アタフタしていた。だけど最後、帰り際に言われたんです。「ありがとう、すごく癒されたよ」「また指名するね」……その瞬間、こらえていたものが一気に溢れた。控室に戻って、誰もいない場所で、静かに泣いた。嬉しかった。ただの“お金のため”じゃなかったんだって、心のどこかで救われた気がした。あのときの涙は、きっと一生忘れないと思う。

第2話　面接の日、震える足で扉を叩いた「お名前をお願いします」受付の女性にそう声をかけられた瞬間、心臓がドクンと大きく跳ねました。冷たい手のひら。乾いた喉。これまで受けてきたどんな面接よりも、緊張していたと思います。風俗の世界は、私にとって未知の世界でした。「怖い人がいるんじゃないか」「何か騙されたりしないかな」そんな不安が、頭の中をぐるぐると巡っていました。でも、面接室に通されたとき、その不安は少しだけ和らぎました。応対してくれたのは、女性のスタッフさん。柔らかい口調で、「今日は来てくれてありがとうね」と微笑んでくれて、まるで緊張しているのを見透かされているようでした。「どうして応募してくれたの？」と聞かれて、私は正直に、動物病院の先生になる夢があること、でも学費を自分でなんとかしたくて、そのために思い切って応募したことを話しました。「夢があるって、すごく素敵なことだよ」その言葉が、胸にじんわりと染みました。仕事内容やお給料、シフトのこと、不安なことまで丁寧に説明してくれて、“ここなら頑張れるかもしれない”と、少しずつ心が前を向き始めたのを覚えています。面接を終えて建物を出たとき、空がすごく青くて、「やってみよう」って自分に言い聞かせました。まだ何も始まってないけど、あの一歩がなければ、私は夢に近づくことすらできなかった。

第1話　夢の終わりに立っていた「獣医になって、たくさんの命を救いたい」そんな夢を抱いたのは、小学生の頃でした。捨てられていた子猫を拾って、動物病院に駆け込んだあの日。優しく診てくれた女の先生の姿が、私の中の「理想」になりました。それからは、勉強も本気で頑張ったし、大学のオープンキャンパスにも何度も足を運びました。だけど――現実は、そんなに甘くなかった。動物病院の先生、つまり獣医師になるには、6年間の大学生活が必要。入学金も学費も、年間で200万円以上かかることを知ったとき、目の前が真っ暗になりました。家庭の事情もあり、奨学金だけでは到底足りない。アルバイトを掛け持ちしても、生活費で消えてしまう。親にも迷惑をかけたくないし、でも夢は諦めたくない。……八方塞がりでした。そんなとき、たまたま見つけたのが「べっぴんコレクション」の求人広告。目を引いたのは、《月収100万以上可》《未経験歓迎》《女性スタッフ在籍》の文字。最初は、正直怖かったし、迷いました。でも、自分に問いかけたんです。「このまま何も変わらず、夢をあきらめていいの？」気がつけば、私は面接の申込みフォームを送信していました。夢のためなら、何でもやってみよう。人生を変える“きっかけ”にしたい。そう、強く思ったんです。

「ひと月の収入が、まさかこんなに変わるなんて」最初にお給料の話を聞いたとき、正直「こんなもんかぁ」って思ってました。もちろん、自分の頑張り次第で変わるってことは分かってたけど、現実はなかなか思うようにはいかないもの。頑張っても頑張っても、思ったほどのバックにならなくて、モチベーションも正直下がってた。でも、ある日店長から言われたんです。「来月から、バックの単価を見直す予定なんだ。頑張ってる子には、もっと報われる環境にしたくてさ」その一言に、ちょっとだけ希望を持った私。そして翌月。出勤初日に確認した「新しいバック表」を見て、思わず声が出そうになった。──これ、頑張れば本当に変わるやつじゃん。実際に新しいバックで1週間働いてみると、今までと全然違う。1日終わってお給料を計算したら、1万円以上も差がある日もあった。たった1日の差で、それだけ変わる。しかも、変わったのは制度だけで、私は今まで通りに接客しただけ。それだけで、なんだか報われた気がした。あのとき、「もう辞めようかな」って迷ってた私に言いたい。環境が変わると、気持ちも変わる。今では、週のスケジュールを立てるのも楽しいし、「次はもっと指名を取ろう」って自然に思える。私にとって、このお店で働くことが“ただのお金稼ぎ”から、“前向きに自分を変えられる場所”に変わった瞬間でした。

第20話　仲間と作る、誰かの“居場所”ある日、久しぶりに一人のキャストが店に戻ってきた。彼女は以前、家庭の事情や体調の不調が重なり、突然姿を消すように退店していた子だった。心配していた私たちは、再び彼女の姿を見た瞬間、思わず駆け寄ってしまった。「……また、ここで頑張りたいんです」その言葉に、胸がじんと熱くなった。ここはただの“職場”じゃない。働くことが怖くなってしまった子が、もう一度勇気を出して戻ってこられる“場所”でありたい。その思いは、私だけじゃなかった。シフトを調整してくれるスタッフ、さりげなく気遣いの言葉をかける先輩キャスト。講習を再度丁寧に引き受けてくれた同僚。みんなが自然と、彼女を迎える空気を作ってくれた。数年前の私だったら、一人で何とかしようとしていたかもしれない。でも今は違う。誰かを支えるには、「誰かと一緒に支える」という選択肢があるということを知った。私たちスタッフは、表に出ることは少ない。名前を覚えられることも、感謝されることも、キャストほど多くはない。けれど、ここで働くすべての人が安心して笑えるように、その裏で走り回る私たちがいる。それが、この店を“居場所”にしている最大の理由だと、今なら胸を張って言える。あのとき、所持金9円で面接に来た自分。初出勤で泣いた自分。指名をもらって震えるほど嬉しかった自分。そのすべての経験が、今の私を作ってくれている。「この店に来てよかった」そう思ってくれるキャストがひとりでも増えたなら、私たちの仕事はきっと成功なんだと思う。そして私自身も、ようやく気づけた。——ここが、私にとっての“居場所”なんだと。